女性社員インタビュー

  • 最終更新:2020/02/07

    産後ゼロからのスタート。母親として効率的に働くためにたどり着いた起業という選択

    貸し会議室をはじめとするレンタルスペースの運営およびプロデュースを手がける株式会社ブルーロータス(以下、ブルーロータス)。

    モノやサービスを多くの人と共有する「シェアリングサービス」のひとつとして、昨今注目を集めている貸し会議室ビジネスを展開する企業だが、はじまりは母親となった一人の女性が模索した働き方の選択がそこにあった。

    2018年にブルーロータスを設立し、現在3歳のお子さんを子育て中の若杉真里さん。 小さなわが子を抱えながら起業に至った経緯や弁護士を目指し必死で駆け抜けた20代の学び、さらに母親になってから変化した仕事観や人生観についてたずねてみた。

    レンタルスペースというあらたなビジネス。物件探しからコンセプト作りまで手がける面白み

    若杉さんが代表取締役をつとめるブルーロータスは、レンタルスペースを持ちたいという人への物件探しからスペースのコンセプト作りなどのプロデュース、運営管理までを一手に引き受けてくれる。

    通常、レンタルスペースを運営する場合、まずは自分自身で物件を持ち、レンタルスペースの専用サイトに物件をのせ、借り手を募ることから始まる。そのうえで、借りたいというお客さんへの応対や予約管理など、運営をすべて一人でこなさなければならない。

    副業で始める人も多いため、それぞれの要望に応じてレンタルスペースを運営するためのサポートをブルーロータスは行なっている。

    「比較的安価な物件を見つけたうえで、まずは内装を美しく蘇らせます。コンセプトに沿った素敵な空間ができたときは満足感が高まりますし、お客様も喜んでくださるので、それがこの仕事の面白みですね。」

    そう語る若杉さんに会議室ビジネスの肝を聞いてみると、「エリアに応じたスペース作りが重要」だという。例えば男性ビジネスマンが多い新橋の物件ならば、モノトーンなどの男性的な色を使ったり、ビンテージ感のある家具を選んだりして、男性受けのするスペース作りを心がけるという。

    逆に女性が多く集まるエリアの物件には柔らかい色使いを意識するなど、ターゲットを設定したうえで、より明確なコンセプトを作っていく。

    不動産を目利きしたり、お客さんや物件オーナーとの調整を行ったり、不動産のプロとして現在活躍する若杉さん。しかし驚くことに彼女のこれまでの人生は不動産とは無縁だったというのだ。

    さらに起業を決意したのも、母親として子育てと仕事の両立を模索するなかで見つけたゼロからの挑戦だった。

    仕事と育児のはざまで多くの母親たちが抱えるモヤモヤを解決するべく、彼女は起業というカタチであらたな人生の一歩を踏み出すことを決めたのだ。

    大きな挫折の後に待ち受けていた結婚・出産。子どもが生まれて見つけた第2の道

    高校卒業後は、大学の学費を貯めるために健康食品の会社に勤めたり、化粧品の代理店をしたり、約5年間を必死で働いたという若杉さん。

    24歳のときに、念願かなって大学へ入学し、その後は弁護士を目指し、法科大学院へと進学する。

    当時、法科大学院修了者の司法試験の受験資格は、5年間で3回までと決められていたため、大学院卒業後は法律事務所で働いたり、翻訳の仕事をしたりしながら限られた時間を試験勉強に捧げた。しかし結果は3度とも不合格。この経験が若杉さんにとって、のちに大きな人生の学びを得る出来事になったという。

    そして3度目の受験を終えたのち、結婚、出産を経験し、あらたなライフステージを歩み出すことになる。

    出産後は、0歳11ヶ月のわが子を保育園に預け、仕事を始めた若杉さん。当時は時給で働いていたため、子どもが熱を出して仕事を休めば、その日の収入はゼロになってしまうという状況だった。

    子どもが体調を崩すたび、仕事を休み、収入は減っていく。本来は大切なわが子のそばに純粋な思いで寄り添ってあげたいのに、現実はどこか悶々とした思いを抱えている自分がいた。

    「自分が動かなくても、安定して収入が得られる仕組みを作れないだろうか?」

    妊娠中から、「家庭を優先しながら安定収入を得る方法」を模索していた彼女は、手段の一つとして不動産についての書籍を読みあさり、知識を身につけていた。そんなある日、「貸し会議室は個人でもできる」という記事をたまたま目にした彼女は、「これだ」と貸し会議室ビジネスに目をつけた。その後貸し会議室のポータルサイトの立ち上げに着手し、個人でも物件を借り、貸し会議室ビジネスを始めたのだった。

    すると次月から黒字となり、月に5〜8万円ほどの収入を得られるようになったという。確かな手応えを感じたことで、徐々に物件を増やし、レンタルスペース運営のノウハウを蓄積していった。

    順調にレンタルスペースの分野で成功をおさめ、まさに“自らが動かなくとも安定した収入が得られる”状況を生み出した若杉さん。個人で投資していた貸し会議室ビジネスはより幅を広げ、現在のビジネスの柱となるレンタルスペースの運営代行やプロデュース業を展開するに至る。

    この仕事じゃなくてもいい。達観した仕事観が力の抜けた生きやすい自分にしてくれた

    ポータルサイトの立ち上げに向けて動き出した若杉さんだったが、システム構築が思うように進まず、完成予定の時期を過ぎても目処がただない状況に陥る。

    その期間に始めたのが、現在の事業の柱となるイベントスペースの運営代行だったのだ。

    シェアリングエコノミーのブームのなかで、レンタルスペースの運営ビジネスは注目を集め、若杉さんの会社もその波にのり、順調に事業を展開している。

    しかし、そんな仕事が好調な彼女の口から想定外の言葉が飛び出す。

    「私はこの仕事を絶対やり抜くぞという力の入った起業家では決してありません。正直いうと、この仕事じゃなくてもいい。もちろん今の仕事は楽しいけれど、がむしゃらにしがみつこうとは思っていません。」

    一見後ろ向きにもとれるこれらの発言。本音を探るべく話に耳を傾けてみると、彼女が弁護士という夢への挫折のなかで得た「何事も完璧を求めず、頑張り過ぎない」という人生の学びが見えてきた。

    「勉強にも人生にも力を入れるところ、抜くところを押さえて、うまく乗り切ることが実はすごく大切なんです。頑張って全て完璧にやることが必ずしもいい方向にいくとは限らない。それが挫折を通して学んだことでした。」

    根が真面目で「ズルしちゃいけない」「完璧じゃなきゃだめ」という気持ちが人一倍強かったという若杉さん。ただがむしゃらに頑張ることが成果に必ずしもつながるわけではないことを身をもって学んだからこそ、以前のように完璧にすべてをこなそうとは思わなくなったと率直な言葉で語る。

    では仕事で嫌なことがあったとき、こらえなければならないと感じる場面ではどう乗り切っているのだろうか?

    「そしたら、もっともっと力を抜くようにしています。逆に向き合うことをやめますね。以前は一晩中考えて、答えが出るまでやらないと気が済まなかったけど、今は『まいっか』の精神を大切にしています。」

    かつての“こうあるべき”な自分から脱したとき、力が抜け、気持ちが楽になったと話す若杉さん。失敗はまさに成功のもと。挫折という経験を通して、凝り固まっていた思考は柔らかくなり、女性らしいしなやかな強さを身につけたことが第2の人生を後押ししてくれた。

    女性であることのメリットを存分に味わう。ネガティブを転換するための逆転の発想

    「昔は男性的な働き方をしていて、休みの日も仕事に全力投球でした。プライドもあったし、もっと怖い顔をしていましたね。でもそれだと子どもがいるとやっていけないと思っています。」

    世の中には仕事と育児で200%の力を発揮するようなスーパーウーマンたちもいるが、若杉さんは「自分はトータルで100%にしかならない」と続ける。

    「物理的にも仕事と育児で50%と50%もしくは40%と60%の、足して100%のなかでしかうまく自分は立ち回れない。だからこそ一方への影響がつらい」と話す若杉さん。

    「仕事に集中しすぎると子どもが不安定になると言われたり、逆に子どものことばかりになると仕事が遅れたり…。女性の仕事への辛さはそういうところに現れると思うんです。」

    子どもがいるからこそ、「その日の仕事が終わらなくとも、夕方には保育園のお迎えに行かなくてはいけない」、「会食の席にも参加できない」、「土日もそうそう一人で外出することもできない」。

    「まいっか」といくら力を抜いて仕事と向き合っても、母親業と社長業の両立は過酷だ。以前のように男性と肩を並べて仕事ができる状況ではない。そのことが女性経営者としての焦りやジレンマになっていた時期もあったと話す。

    しかし、最近は発想を変え、「女性は男性と比べて自由である」とポジティブに捉えられるようになったという。

    「飲み会に参加できない」「夜遅くまで働くことができない」のではなく、逆転の発想で「飲み会に参加しなくても良い」「夜遅くまで働かなくても良い」という特権を得たと考えるに至った若杉さん。

    できないことばかりに目を向け、罪悪感を抱えて仕事をすることは「子どもに純粋な思いで寄り添いながら働きたい」という当初の思いから乖離することでもある。

    しかし仕事が順調に進むなかで、仕事と育児の両立が難しくなる局面も正直あるという。しかし彼女は、子どもに対して自分なりに最善を尽くしたいという思いからは決して離れない。

    今をベストに生きるために、女性らしくしなやかに働く彼女の姿は、女性がさまざまなライフイベントを乗り越えながら生きる強さのあり方を教えてくれているようだ。